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日本新薬のPER約8倍は、ウプトラビ特許切れを先に織り込んだ安さか

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日本新薬のPER約8倍は、ウプトラビ特許切れを先に織り込んだ安さか

日本新薬の2026年3月期は、売上収益1,707.7億円で増収、売上高純利益率は17.4%です。推定株価3,432円で試算した時価総額は約2,313億円で、同じ期の純利益297.2億円に対する倍率は約7.8倍です。安く見えます。ただし売上の29%は、肺高血圧症治療薬ウプトラビの海外売上に連動する工業所有権等収益です。会社自身は、第七次中期経営計画の最終年度である2028年度の営業利益目標を300億円と、直近の354.96億円より低く置いています。この安さは、2027年4月から入る後発品を先に織り込んだ値段なのか。本稿はその一点を見ます。

年度の呼び方は混ぜません。表の2026は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)です。会社予想の対象は2027年3月期で、特許切れの前です。後発品が入るのは2027年4月以降、つまり2027年度(2028年3月期)からです。営業利益300億円の目標が置いてあるのは、その次の中計最終年度、2028年度(2029年3月期)です。

利益の厚みは店頭ではなく、ウプトラビの海外ロイヤリティ

日本新薬は京都に本社を置く医薬品と機能食品のメーカーです。連結子会社は6社で、米国はNS Pharma, Inc.が販売・導出入・臨床開発を担います。2026年3月期の売上収益170,771百万円のうち、医薬品は148,484百万円(86.9%)、機能食品は22,287百万円(13.1%)です。

医薬品の中身は一枚岩ではありません。決算短信の売上内訳では、製商品としての医薬品が90,062百万円、工業所有権等収益が49,457百万円、共同販促収入が8,964百万円です。工業所有権等収益は前期比+8.5%で、会社はウプトラビの海外売上に伴うロイヤリティ収入の伸長と説明しています。49,457百万円は売上収益170,771百万円の29.0%です。利益の厚みは、自社の店頭販売だけではなく、導出先の売上が立つたびに入る料率に乗っています。

2026年度第1四半期決算説明会で社長は、後発品が入るのは2027年4月以降であり、結晶型特許があっても後発品を止められない、料率は後発品参入後も変わらず、相手の売上が落ちた分だけロイヤリティが減る、と説明しています。相手はJohnson & Johnsonです。SaaSのように前受で積み上がる収益ではなく、相手先売上の発生に応じて毎期入る収入です。

堀の候補は、自社創薬の核酸医薬(デュシェンヌ型筋ジストロフィーが中心)、希少疾患の導入品、ウプトラビ・フィンテプラ・アーリーダの処方基盤、機能食品の品質管理です。研究開発費は36,713百万円で、対売上21.5%です。ただし利益の29%を一つのロイヤリティが占め、その終了時期がカレンダーで読める以上、利益のプールそのものに広い堀があるとは見ていません。次の柱がロイヤリティの穴を埋めて初めて、堀の話になります。

機能食品は特許切れと別の足です。プロテイン製剤13,680百万円、品質安定保存剤3,269百万円、サプリメント2,821百万円(前期比+16.8%)、健康食品素材1,214百万円です。売上の13%なので、医薬品の崖を単独では埋めません。

増収は続いた。純利益が減った主因は税率

指標202420252026
売上高(億円)1482.61602.31707.7
純利益(億円)258.5325.6297.2
売上高純利益率17.4%20.3%17.4%

表の2024・2025・2026は、それぞれ2024年3月期・2025年3月期・2026年3月期です。売上高は1,482.6億円から1,707.7億円へ4期連続で増えました。純利益は325.6億円から297.2億円へ減り、売上高純利益率は20.3%から17.4%に戻りました。2024年3月期と同じ17.4%です。

減益の主因は本業の消失ではありません。決算短信の連結損益計算書では、税引前利益は36,135百万円から36,462百万円へ+0.9%、営業利益は35,450百万円から35,496百万円へ+0.1%です。法人所得税費用は3,574百万円から6,734百万円へ増え、税引前利益に対する比率は約9.9%から約18.5%になりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は32,558百万円から29,721百万円(−8.7%)です。

費用の中身も見ておきます。売上原価は57,460百万円で原価率33.6%(前期比1.7ポイント悪化)、販売費及び一般管理費は43,565百万円(+14.6%)、研究開発費は36,713百万円(+6.9%)です。会社は、NS Pharmaの販売費とウプトラビの販促委託料が販管費を押し上げたと説明しています。その他の収益は為替差益などで874百万円から3,025百万円へ増え、その他の費用は2,186百万円から560百万円へ減りました。増収と営業外の収益増が、原価と販管費の増加をほぼ相殺した、という期です。

主力製品の表(決算短信の補足、単位は百万円)では、ウプトラビ国内が17,593(+17.5%)、フィンテプラが3,980(+92.5%)、2025年10月から自社の製品売上になったアーリーダが5,961です。ビルテプソは21,188(−2.7%)で、うち米国は16,413(−4.1%)です。米国は投与患者の若年化で一人あたり投与量が減った、と決算説明にあります。伸びている製品と、すでに頭を打っている製品が同居しています。

2027年3月期の会社予想は、売上収益200,000百万円(+17.1%)、営業利益38,000百万円(+7.1%)、親会社の所有者に帰属する当期利益30,300百万円(+1.9%)です。工業所有権等収益の予想は53,000百万円、アーリーダは14,400百万円、フィンテプラは6,100百万円、Deramiocelの米国売上は11,400百万円です。これは実績ではなく会社予想で、表には入れていません。会社はクリフの直前の期まで伸ばす計画を置いています。減るのはその次、という説明と、2026年3月期の実績はまだ矛盾していません。

325億円のオーナー利益は、無形資産の取得が止まった年

(※シミュレーション条件:推定株価3,432円、期待利回り5%)

指標202420252026
オーナー利益(億円)212.2537.8325.68
オーナー利益価値(億円)42457566513.6

オーナー利益は、純利益に減価償却費を足し、有形固定資産の取得と無形資産の取得による現金支出を引いたものです。2026年3月期は29,721百万円 + 6,629百万円 − 2,981百万円 − 801百万円 = 32,568百万円で、表の325.68億円と一致します。期待利回り5%で割ったオーナー利益価値は651,360百万円、表の6,513.6億円です。

2025年3月期の37.8億円は、本業が消えた数字ではありません。同じ式で、無形資産の取得による支出が31,441百万円あり、オーナー利益は3,780百万円まで落ちています。2026年3月期の無形資産の取得は801百万円です。決算短信の設備投資の補足には、導入一時金とマイルストンペイメントを除く設備投資額が2025年3月期5,055百万円、2026年3月期5,140百万円とあり、前期の大きい支出は導入一時金・マイルストン側に寄っています。どの契約の一時金かは、手元の資料では特定できていません。事実として書いてよいのは、無形資産の現金支出がオーナー利益を1年だけ押し下げ、その支出が止まった年に325.68億円へ戻った、ということです。維持的な設備投資というより、導入対価の有無で振れます。同じ振れは再発しえます。

推定株価3,432円に、自己株式控除後の67,400,984株を掛けると試算時価総額は231,320百万円、約2,313億円です。オーナー利益価値6,513.6億円はこの約2.8倍です。逆に、試算時価総額に期待利回り5%を掛けると年約116億円で、株価が織り込んでいるオーナー利益は、直近325.68億円の約3分の1です。trailingの数字だけ見れば安全なマージンは厚く見えます。その厚みは、無形資産の取得が801百万円のまま、オーナー利益が326億円近辺に留まる場合の話です。

ウェブ上の時価総額は2026年10月23日時点で241,103百万円、発行済株式数(自己株式を含む)70,251,484株×3,432円です。自己株式の扱いで試算と約4%違いますが、30%の範囲内です。年初来高値は5,787円(2026年1月8日)、安値は3,322円(2026年10月8日)で、試算に使った3,432円は高値から下がったあとの終値と一致しています。市場はすでにこの会社を高くは見ていません。安くなった理由が特許切れの織り込みなら、trailingの2.8倍は安全なマージンではなく、先の利益を見た値段です。

ネットキャッシュ1,242億円の大半は、現金そのものではない

指標202420252026
ネットキャッシュ(億円)1053.07985.871241.52
正味流動資産比率45.557%42.634%53.671%

ここでのネットキャッシュは、(流動資産 − 棚卸資産)+(投資有価証券 × 70%)− 負債です。2026年3月期末は、流動資産183,086百万円、棚卸資産51,595百万円、非流動のその他の金融資産67,356百万円、負債54,488百万円なので、(183,086 − 51,595) + (67,356 × 0.7) − 54,488 = 124,152百万円です。表の1,241.52億円と一致します。正味流動資産比率53.671%は、この1,241.52億円を試算時価総額約2,313億円で割った値です。

現金及び現金同等物は76,592百万円です。負債54,488百万円を引くと22,104百万円、約221億円しか残りません。1,241億円との差は、売掛金などの棚卸資産以外の流動資産と、投資有価証券の70%評価です。非流動のその他の金融資産は前期末39,492百万円から67,356百万円へ増えており、親会社の所有者に帰属する持分も247,028百万円から291,551百万円へ44,523百万円増えています。利益剰余金の増加は24,051百万円(222,640百万円から246,691百万円)なので、持分の増加の半分近くは利益の蓄積以外、保有金融資産の評価です。PBRを有報の1株当たり純資産4,325.63円と推定株価3,432円で計算すると約0.79倍です。分母には、この評価益が入っています。

負債の中心は営業債務26,132百万円と未払法人所得税6,979百万円です。その他の金融負債は流動273百万円・非流動235百万円、リース負債は流動913百万円・非流動1,654百万円で、借入で利益を買っている貸借対照表ではありません。自己資本比率は84.2%です。配当は年間124円、連結配当性向28.1%、DOE 3.1%で、会社は同じ124円を次期も予想しています。下値の支えは、現金221億円ではなく、有価証券を七掛けしたあとでも時価総額の半分強が残る、という計算です。有価証券の時価が維持されるかは別の前提で、実績ではありません。

2027年4月の後発品と、予想に入っている114億円

最大のリスクはウプトラビの特許切れです。第七次中期経営計画は、2027年度の特許切れで、ロイヤリティが大部分の工業所有権等収益が大きく減る、と書いています。有報も「来たるウプトラビのパテントクリフ」を、次の成長の前提に置いています。2026年3月期の49,457百万円が売上の29%なので、ここが細ると、純利益率17.4%やPER約8倍の見え方が変わります。料率が維持されても、導出先の売上が落ちればロイヤリティは落ちます。

中計最終年度2028年度の定量目標は、売上収益2,300億円、営業利益300億円、EPS 341円、ROE 8%以上、ROIC 9%以上です。2026年3月期の営業利益354.96億円、基本的EPS 441.00円、自己資本利益率は純利益を期首期末の親会社持分の平均で割ると約11%です。利益と資本効率の目標は、直近の実績より低いです。会社は研究開発費として中計期間に1,900億円を置くなど、クリフを越えるための投資を計画に入れています。いまの株価がこの利益低下をどこまで織り込んだかは解釈であり、trailingのオーナー利益価値だけでは決まりません。

次に、2027年3月期予想へ入っているDeramiocel(CAP-1002)の米国売上11,400百万円です。2026年7月29日のFDA諮問委員会は、心筋症の有効性を支持しない票が3対9でした。PDUFA目標日は2026年8月22日から2026年11月22日へ延長されています(日本新薬の2026年8月25日IR)。2026年5月7日にはCapricorが米国販売契約の解除等を求める訴えを提起し、決算短信は後発事象として記載しています。承認も契約も、114億円の前提としては未確定です。この調査時点(2026年10月25日)ではPDUFAの結果は出ていません。

ビルテプソの米国売上は前期比減で、DMD領域の競合と保険審査の厳格化が説明されています。RGX-121は2026年1月に臨床試験の実施保留、その後解除、2026年2月にCRLを受領して申し立て中、と決算説明にあります。薬価改定と後発品、原価率33.6%への悪化、円高が売上と営業利益を減らす可能性も、会社がリスクとして書いています。

上に振れる材料も、実績の隣にあります。アーリーダは自社売上へ切り替わった期が5,961百万円で、会社予想は14,400百万円です。フィンテプラの予想は6,100百万円です。機能食品のサプリメントは+16.8%でした。いずれも、工業所有権等収益の穴を埋める候補ではありますが、2026年3月期の時点では穴そのものはまだ開いていません。

様子見。安さは、ロイヤリティが残るかで点検する

日本新薬は、希少疾患と肺高血圧の処方基盤を持ち、2026年3月期も増収で純利益率17.4%を残した会社です。いまの判断は様子見です。理由は二つです。第一に、PER約7.8倍とオーナー利益価値6,513.6億円は、無形資産の取得が801百万円だった年の325.68億円が続く前提で厚く見えます。第二に、会社自身が2028年度の営業利益目標を300億円と直近354.96億円より低く置き、売上の29%は2027年4月以降に後発品が入るウプトラビのロイヤリティです。ネットキャッシュ1,241.52億円は時価総額の約54%ですが、現金から負債を引いた残りは約221億円で、差額の多くは投資有価証券の七掛けです。PBR約0.79倍とこのネットキャッシュだけで安心、とは見ません。2025年3月期のオーナー利益37.8億円を、本業の破綻とも見ません。

強気に転じる監視トリガー

  • 2027年3月期の工業所有権等収益が、会社予想53,000百万円の近辺を維持すること。確認先は決算短信の補足「主力製品売上収益」です。
  • 同じ表で、アーリーダが会社予想14,400百万円、フィンテプラが会社予想6,100百万円の近辺まで増えていること。クリフの前の期に、次の柱が計画どおり育っているかを見ます。

見送り・警戒を強める監視トリガー

  • 2027年4月以降に工業所有権等収益が49,457百万円から大きく落ち、2028年度の営業利益見通しが中計目標300億円をさらに下回ること。確認先は決算短信と中計の進捗です。
  • DeramiocelのPDUFA目標日(2026年11月22日)またはCapricorとの訴訟の結果で、2027年3月期予想に入っている米国売上11,400百万円が外れること。確認先は日本新薬のIRニュースです。

オーナー利益価値が時価総額の2.8倍だから買う、という結論は置きません。326億円の稼ぐ力が、ロイヤリティの減少後も残るかを、主力製品の表で確かめてからにします。


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