OKURIRU ブログ

最高益1,069億円なのに株価は高値の半値——住友ファーマから一時益と増資を剥がして残る「米国2剤の稼ぐ力」

10分で読めます
最高益1,069億円なのに株価は高値の半値——住友ファーマから一時益と増資を剥がして残る「米国2剤の稼ぐ力」

住友ファーマの2026年3月期は、親会社の所有者に帰属する当期利益が1,069億円(前期比+352.2%)でした。2年前の2024年3月期は約3,150億円の純損失だったので、数字の上では見事なV字回復です。

ところが株価は、2026年2月の高値3,288円から9月には1,600円前後まで下がり、半値以下に沈んでいます。4月の公募増資の発行価格1,990円も下回ったままです。最高益と株価半値——この食い違いは「市場が見誤っている」のか、それとも「最高益の中身が見た目ほど良くない」のか。本稿では、一時益と希薄化を剥がしたあとに残る稼ぐ力で、この問いを確かめます。

米国の経口剤2つで稼ぐ、再建途上の製薬会社

住友ファーマは住友化学の連結子会社で、米国で進行性前立腺がん治療剤「オルゴビクス」と過活動膀胱治療剤「ジェムテサ」を自社販売して稼ぐ研究開発型の製薬会社です。日本では他社品の共同プロモーションで売上を補い、再生・細胞医薬ではiPS細胞由来のパーキンソン病治療製品「アムシェプリ」が2026年3月に条件及び期限付承認を取得しました。

稼ぎ頭の2剤には、臨床面での差別化があります。オルゴビクスはホルモン療法で唯一の経口剤で、2025年1月のメディケア自己負担上限の引き下げを追い風に数量がほぼ倍増し、売上は約10億ドル(前年比+88%)に達しました。ジェムテサは前立腺肥大症を伴う過活動膀胱に適応を持つ唯一のβ3作動薬で、売上は約6億ドル(同+45%)です。競合品のジェネリック化でβ3作動薬市場そのものが広がっている点も追い風になっています。

裏返すと、これは集中のリスクでもあります。有価証券報告書によれば、2剤の北米売上は連結売上収益の55%を占めます。IRA(インフレ抑制法)、最恵国(MFN)薬価、関税、保険カバレッジの変更が、そのまま利益を揺らす構造です。米国のアプティオム、日本のエクア・エクメットは独占販売期間が終わって売上が剥落しており、2剤の次を担うがん2品目(enzomenib、nuvisertib)はまだ臨床段階です。

売上は4割増、利益の半分近くは一度きりの収入

指標202420252026
売上高(億円)3145.63988.34532.9
純利益(億円)-3149.7236.31068.7
売上高純利益率-100.1%5.9%23.6%

売上高は2024年の3,145.6億円から2026年の4,532.9億円へ、2年で約44%増えました。セグメント別では、北米が3,379億円(+34.2%)と伸びた一方、日本は924億円(-7.5%)、アジアは事業の一部譲渡による脱連結で230億円(-51.2%)に縮んでいます。増収はほぼ北米2剤とオルゴビクスの販売マイルストン収入によるものです。

利益の改善には、構造的な部分と一度きりの部分が混ざっています。構造的なのはコストの圧縮で、従業員数は2024年の4,980人から2026年は3,123人まで減り、一人当たり売上高は約6,316万円から約1億4,515万円へ2倍以上になりました。

一方、2026年3月期にはアジア事業の一部持分譲渡による関係会社持分譲渡益490億円を、コア営業利益(その他の収益)に計上しています。コア営業利益1,059億円の約46%に当たる金額です。オルゴビクスの販売マイルストン収入も含まれますが、金額は開示されていません。会社自身も2027年3月期は売上収益5,400億円(+19.1%)に対し、当期利益770億円(-27.9%)と減益を予想しています(会社予想であり、本稿の表には使いません)。売上高純利益率23.6%は、巡航水準と読まないほうが安全です。

一時益を除いても時価総額の約2倍、それでも市場は割り引く

(※シミュレーション条件:推定株価1,595円、期待利回り5%)

指標202420252026
オーナー利益(億円)-2929.34361.661203.39
オーナー利益価値(億円)-58586.87233.224067.8

オーナー利益は、純利益に減価償却費を足し、設備投資と無形資産投資を引いた値です。2026年は1,203.39億円で、期待利回り5%で割り戻したオーナー利益価値は2兆4,067.8億円になります。推定株価1,595円×増資後の株式数(自己株式除く448,593,454株)で試算した時価総額7,155.1億円の約3.4倍です。

ただし、この1,203.39億円には一時益が含まれています。当サイトの調整後オーナー利益(一時的損益469.7億円を控除)は733.69億円、調整後オーナー利益価値は1兆4,673.8億円です。有価証券報告書の持分譲渡益490億円を単純に差し引いても約713億円で、結論はほぼ変わりません。一時益を剥がしても、期待利回り5%なら時価総額の約2倍の価値が残る計算です。

では、なぜ市場はそこまで割り引くのか。逆算すると、調整後オーナー利益733.69億円は試算時価総額の約10.3%に当たります。次の節で見る負のネットキャッシュ約2,870億円を時価総額に足して比べても約7.3%です。市場は住友ファーマに5%ではなく、7〜10%程度の利回りを求めている、と読めます。売上の55%を2剤に頼り、米国の薬価政策を直接受ける会社に対して、5%の期待利回りは甘いという評価でしょう。割安かどうかは、この追加の割引に見合うだけ2剤の利益が長く続くかどうかで決まります。

希薄化も見落とせません。2026年4月の公募増資で新株51,304,400株が発行され、既存株式に対して約12.9%の希薄化となりました。上の試算時価総額はすでに増資後の株式数で計算していますが、オーナー利益は増資前の期間のものです。調整後オーナー利益を増資後の株式数で割ると、1株当たり約164円になります。

マイナス2,870億円のネットキャッシュ、増資で改善の途中

指標202420252026
ネットキャッシュ(億円)-4839.53-3832.75-2869.74
正味流動資産比率-76.372%-60.484%-40.108%

ここでのネットキャッシュは、(流動資産−棚卸資産)+投資有価証券×70%−負債という保守的な定義です。2024年の-4,839.53億円から2026年の-2,869.74億円まで改善しましたが、まだ大幅なマイナスで、1株当たりに直すと約-640円です。株価の下値を支えるクッションはありません。改善の主因は、負債が5,731億円から5,121億円へ610億円減ったことです。

注意したいのは、時点のズレです。表の2026年の値は増資前の2026年3月末の貸借対照表で計算していますが、株式数は増資後です。2026年6月末の貸借対照表に同じ定義を当てると約-1,672億円(投資有価証券は期末値で代用した参考値)で、1株当たり約-370円まで縮みます。公募増資と借換えで劣後債と住友化学の債務保証を解消し、親会社所有者帰属持分比率は2025年3月末の22.8%から2026年3月末の36.4%、6月末には48.4%まで上がりました。

中期経営計画「Boost 2028」は、自己資本比率の早期50%超とポジティブ・ネットキャッシュへの回帰を掲げています。方向は正しいものの、いまはまだ「財務の質が改善している途中」で、「ネットキャッシュで守られた株」ではありません。

2剤への集中と、次の柱が育つまでの空白

最大のリスクは、利益の源泉が米国2剤に集中していることです。会社はジェムテサの価格(GTN)が2026年度に、カバレッジ再開とIRAの影響で悪化すると説明しています。MFN薬価や関税の議論が具体化すれば、利益の大半を生む北米事業が直接打撃を受けます。

足元の数字にも慎重な材料があります。2027年3月期第1四半期は売上収益1,295億円(+19.9%)でしたが、営業利益は181億円(-11.0%)と減益で、営業キャッシュフローは-74億円でした。四半期利益170億円(+51.7%)は為替差益が押し上げたものです。会社の中間期予想は当期利益260億円(-73.7%)で、一時益の剥落がはっきり表れる見込みです。

資本政策では、最大1,400億円・6,000万株の発行登録(期間2027年3月まで)に未使用枠が残っている可能性があり、追加の希薄化には警戒が必要です。無配も続いています。住友化学が支配株主である親子上場の構造も、少数株主から見ればガバナンス上の論点です。

開発面では、enzomenib(急性白血病、2027年度上市目標)とnuvisertib(骨髄線維症、2028年度上市目標)が2剤の後を担う前提です。どちらかがつまずけば、2剤のピークアウト後に空白が生まれます。逆に、アムシェプリやユニバーサルインフルエンザワクチンなどのパイプラインは、現在の株価にはほとんど織り込まれていないオプションでもあります。

いまは様子見——中間決算で巡航利益を確かめる

住友ファーマは、3,150億円の赤字から人員を大きく減らし、米国2剤で最高益に戻った会社です。一時益を剥がした調整後オーナー利益733.69億円でも、期待利回り5%なら時価総額の約2倍の価値があります。それでも投資判断はいまは様子見とします。理由は2つです。ひとつは、2027年3月期に会社自身が27.9%の減益を見込んでおり、一時益が抜けた後の巡航利益をまだ数字で確認できていないこと。もうひとつは、ネットキャッシュが増資後の参考値でも約-1,672億円と下値の守りがなく、2剤集中に見合う追加の割引を正当化する材料が残っていることです。

【強気に転じる監視トリガー】

  • 2026年10月30日の中間決算で、北米売上が前年同期比+15%超を保ち、通期コア営業利益予想910億円が据え置かれること
  • 2027年3月期末に親会社所有者帰属持分比率が50%を超え、当サイト定義のネットキャッシュが-1,500億円より改善し、enzomenibの申請が2027年度上市の計画どおり進むこと

【見送り・警戒を強める監視トリガー】

  • ジェムテサのGTN悪化やMFN薬価・関税の影響で、四半期の北米売上が前年同期を割り込む、または通期コア営業利益予想が下方修正されること
  • 発行登録枠を使った追加増資、またはenzomenibの申請遅延・試験中止が明らかになること

「過去最高益だから割安」とも「ネットキャッシュが大幅マイナスだから危ない」とも決めつけません。一時益が抜けた中間決算で、2剤の稼ぐ力と財務の改善がそろって確認できるかを見てから判断します。


住友ファーマ株式会社 の「あるべき株価」をシミレーションしてみませんか?

記事で紹介した住友ファーマ株式会社の財務データ、もっと深く分析したいと思いませんか?

okuriru.comなら、バフェット流の「オーナー利益」に基づいた住友ファーマ株式会社のシミュレーションが可能です。あなたが求める期待利回り(ハードル・レート)を入力するだけで、独自の理論株価を瞬時に算出します。

👉 住友ファーマ株式会社の理論株価を計算する

「この株、今の価格は妥当?」という疑問を、自分だけの基準で解消しましょう。財務データのCSVダウンロードも、もちろん可能です!


タグ