最近、あらゆる場所で「DX」や「リスキリング」という言葉を耳にするようになりました。開発現場にいると、エンジニア不足は本当に深刻だと日々実感します。即戦力を外部から採用するのも難しい中、今回注目したいのは、自らエンジニアを育てて現場に送り出す「自給自足型」の成長モデルを持つ株式会社ディ・アイ・システム(以下、ディ・アイ・システム)です。
同社は15期連続増収という安定した成長を遂げながら、現在さらなる高収益化に向けた「種まき」の時期を迎えています。今回は、この独立系SIerがなぜ面白いのか、財務データと事業構造の両面から紐解いていきたいと思います。
IT人材を自ら育てる「教育×SI」のハイブリッドモデル
ディ・アイ・システムは、主に業務用アプリ開発やインフラ構築を手がけるシステムインテグレーターです。彼らの最大の強みは、グループ内に教育事業(アスリーブレインズ社)を持っている点にあります。
IT業界の構造的なボトルネックは「人が採れないこと」ですが、同社は未経験者を採用し、自社の研修プログラムを通じて早期に戦力化する仕組みを構築しています。これにより、採用難の市場環境下でも安定してエンジニアを確保し、高単価な案件へアサインすることが可能です。
さらに、近年は派遣や準委任から、より利益率の高い元請け・受託案件へのシフトを進めています。セキュリティ製品(WEEDS Trace等)の販売や、最新の生成AIを活用した研修サービスも好調で、教育が「フロントエンド」として機能し、そこからSIの大型案件へと繋がる好循環が生まれつつあります。
成長性と効率性:15期連続増収と、“意図的"な踊り場
まずは足元の成長性と効率性を見てみましょう。売上高は右肩上がりですが、利益の伸びはやや控えめに見えます。
| 指標 | 2021年9月期 | 2022年9月期 | 2023年9月期 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 (百万円) | 5,160 | 5,595 | 6,368 | 6,829 | 7,222 |
| 純利益 (百万円) | 162 | 215 | 277 | 231 | 243 |
| 売上高純利益率 (%) | 3.1 | 3.8 | 4.3 | 3.4 | 3.4 |
売上高は着実に伸びており、DX投資需要をしっかりと取り込んでいることがわかります。しかし、直近の2024年・2025年9月期は純利益率が3%台で推移し、少し足踏みしているようにも見えます。
実はこれ、意図的な「戦略投資」によるものです。同社は2028年9月期に向けた「Vision2028」において、売上高100億円・営業利益10億円という野心的な目標を掲げています。その準備として、現在は本社移転、社員の待遇向上(ベースアップ)、社内基幹システムの刷新、そして生成AIなどの研究開発に資金を投下しているフェーズなのです。つまり、利益が伸び悩んでいるのではなく、将来の利益率向上のためにあえてしゃがんでいる時期と言えます。
バリュエーション分析:稼ぐ力と現在の株価
続いて、実際のキャッシュ創出力であるオーナー利益を見てみましょう。
(※シミュレーション条件:推定株価900円、期待利回り5%)
| 指標 | 2021年9月期 | 2022年9月期 | 2023年9月期 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| オーナー利益 (百万円) | 158 | 209 | 245 | 167 | 136 |
| オーナー利益価値 (百万円) | 3,160 | 4,180 | 4,900 | 3,340 | 2,720 |
先行投資フェーズであるため、直近のオーナー利益は純利益と同様に押し下げられています。推定株価900円で計算した時価総額(約27億円程度)と比較すると、足元のオーナー利益価値(27億円前後)とは概ね釣り合っているように見えます。
しかし、これは「投資負担が重い現在の姿」をベースにした評価です。もし「Vision2028」が軌道に乗り、営業利益率が現在の約5%から目標の10%に近づけば、オーナー利益価値は大きく跳ね上がります。現在の株価水準は、こうした「利益率改善のアップサイド」をまだほとんど織り込んでいない、と考えることもできます。
財務の安全性:健全なバランスシート
バリュー投資では、ダウンサイドへの耐性も重要です。
| 指標 | 2021年9月期 | 2022年9月期 | 2023年9月期 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| ネットキャッシュ (百万円) | 374 | 362 | 609 | 577 | 733 |
| 正味流動資産比率 (%) | 14.8 | 13.0 | 18.2 | 15.6 | 18.5 |
自己資本比率は50%を超えており、ネットキャッシュも約7.3億円と潤沢です。積極的な投資を行っている最中にもかかわらず、キャッシュは目減りするどころか増加傾向にあります。これは、本業からの営業キャッシュフローがしっかりと投資額をカバーできている証拠です。万が一、マクロ環境の悪化でIT投資が冷え込んでも、十分に耐えられる財務の基盤が整っていると言えます。
気になるリスク:人材獲得競争と外注費の高騰
もちろん、リスクもあります。
最大の懸念は、皮肉にも彼らの強みでもある「人材」に関連するものです。業界全体でエンジニアの争奪戦が激化しており、採用コストや待遇改善(ベースアップ)の負担が想定以上に長引けば、利益率の改善が遅れる可能性があります。
また、大型の元請け案件が増える中で、自社リソースだけでは対応しきれずビジネスパートナー(外注)への依存度が高まっています。外注単価の上昇をうまく顧客への提供価格に転嫁できなければ、粗利率を圧迫する要因となります。
投資家としての結論:成長の「第2フェーズ」に乗れるか
ディ・アイ・システムは、15期連続増収という安定感と、強固な財務基盤を持つ優良企業です。
バリュー投資家として見ると、足元の指標に極端な割安感(深い安全マージン)があるわけではありません。しかし、「意図的な投資期間」によって見かけの利益が抑えられていること、そして「Vision2028」に向けた高収益化へのシナリオが明確であることを踏まえると、非常に面白いタイミングにあると感じます。
今はまだ「様子見」としつつも、四半期決算で新製品の貢献や元請け案件の増加による利益率改善の兆しが見えたなら、市場の評価が一変する前にエントリーを検討したい銘柄です。逆に、売上が伸びても利益率が5%前後から抜け出せない状態が続くようであれば、構造的なコスト増に苦しんでいると判断し、見送るべきでしょう。
IT人材不足という社会課題を「自前育成」で乗り越えようとする同社の次なる飛躍に、引き続き注目していきたいと思います。
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