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ZACROS(旧: 藤森工業):先行投資700億円と大幅増配。実質無借金企業が挑む第2の創業

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ZACROS(旧: 藤森工業):先行投資700億円と大幅増配。実質無借金企業が挑む第2の創業

こんにちは。個人開発者としてokuriru.comを作っている中の人です。

最近、EDINETのデータを流し込んでいると、見慣れないスタイリッシュな社名が目に留まりました。「ZACROS株式会社」。誰だろうと思って調べてみると、なんとあの藤森工業でした。2024年10月に創業110周年を迎え、かつてのハウスネームを社名にして「第2の創業」へ踏み出したそうです。

名前が変わっただけなら「ふーん」で終わるのですが、財務データを見ると驚きました。分割前基準で年間配当を130円へ大幅増配し、1:4の株式分割まで実施。それでいて、オーナー利益はなんと大幅なマイナス。

株主還元を強めながら、同時にキャッシュを激しく燃やしている。これは単なる社名変更の裏で、とんでもない構造改革が進行している証拠です。バリュー投資家として、この「見かけの赤字」をどう評価すべきか、じっくり読み解いていきたいと思います。

「つつむ技術」からバイオ・半導体領域へのシフト

ZACROSのルーツは包装フィルムにありますが、現在の勝ち筋はもっと高度な領域にあります。

特に強いのが「情報電子事業」です。ディスプレイに使われる偏光板用プロテクトフィルムでは圧倒的なシェアを持ち、業界初となる「3m幅塗工機」の導入で大型化する需要を確実に取り込もうとしています。

そして、次世代の柱として注力しているのが、バイオ医薬品製造用のシングルユースバッグ事業である「BioPhaS」です。これまで海外依存が高かった領域ですが、国産化のニーズを捉え、三重事業所の新棟で生産能力を一気に強化しています。「つつむ」というコア技術を、半導体やバイオという高付加価値な最先端分野へ横展開しているのが、今のZACROSの強みです。

成長性と効率性:情報電子が牽引し大幅増益

まずは売上と利益の推移から、足元の稼ぐ力を見てみましょう。

決算年月売上高純利益売上高純利益率
2025年3月期1,507億円65.3億円4.3%
(前期比)+10.7%+44.1%-

2025年3月期は、情報電子事業や産業インフラ事業が好調に推移し、価格転嫁も進んだことで2桁増収、純利益は(前期比+44.1%)という素晴らしい着地を見せました。

本業の儲けは文句なしに好調です。しかし、バリュー投資家が本当に見たいのは「実際に手元に残るキャッシュ」です。

バリュエーション:オーナー利益の「赤字」の正体

ここで、会計上の利益から実際のキャッシュ創出力を測る「オーナー利益」を確認します。

(※シミュレーション条件:推定株価1,300円、期待利回り5%)

決算年月オーナー利益オーナー利益価値
2025年3月期△115.5億円算出不可

2025年3月期のオーナー利益は、なんと115億円以上のマイナスに沈んでいます。一見すると「大赤字」で危険なサインに見えますが、これこそがZACROSの「第2の創業」の本気度を示しています。

実は今期、設備投資費として236.9億円という桁違いの資金を投下しています(前期は73.8億円)。これは中期経営計画に基づく「積極的な先行投資」の1年目であり、期間全体で700億円規模の投資を予定しています。

つまり、このオーナー利益のマイナスは事業が苦しいからではなく、バイオや半導体向けの次世代設備を立ち上げるための「意図的な仕込み」なのです。将来の成長という果実を得るための、健全な出血と言えます。

財務の安全性:これだけ投資しても盤石なネットキャッシュ

「先行投資は立派だが、そんなにキャッシュを燃やして財務は大丈夫なのか?」バリュー投資家なら必ず抱く疑問です。下値耐性を確認しましょう。

決算年月ネットキャッシュ正味流動資産比率
2025年3月期338.6億円35.2%

巨額の先行投資を行い、さらに配当も大幅に増やしているにもかかわらず、ネットキャッシュは338億円と極めて高水準を維持しています。

これだけ攻めの投資を行っても実質無借金状態であり、財務の安全マージンは分厚いです。この圧倒的な「死なない強さ」があるからこそ、大胆な投資と株主還元の両立が可能になっているのです。

リスク:投資回収までの「我慢の時期」

一方で、手放しで喜べないリスクもあります。

最大の懸念は、巨額投資に伴う「減価償却費の増加」です。会社側の計画でも、2026年度までは償却負担が重くのしかかり、利益水準は横ばいにとどまる見込みです。市場がこの「足踏み期間」をネガティブに捉えれば、株価が軟調に推移する可能性があります。

また、情報電子領域はディスプレイや半導体など市況の変動を受けやすく、過去にはランサムウェアによる被害で生産停止(約5億円の損害)を経験するなど、情報セキュリティの強化も課題として残っています。

投資家としての結論:我慢の先の果実を待てるか

ZACROSは今、大きく脱皮しようとしています。

1:4の株式分割で流動性を高め、配当性向40%を目安としつつ分割前基準で130円への大増配に踏み切り株主に報いながら、未来に向けて700億円もの投資を断行しています。

足元のオーナー利益がマイナスになることや、向こう数年間は償却費負担で利益が伸び悩むことは事実です。しかし、その裏には分厚いネットキャッシュという安全マージンがあり、投資の中身もバイオ医薬品や先端半導体向けという、将来確実に必要とされる領域です。

何より見逃せないのが、いまの株価水準の割安さです。株式分割(1:4)を考慮した現在の試算時価総額(約963億円)は、投資フェーズに入る前の2023年に叩き出していた「オーナー利益価値」(約976億円)を下回っています。しかも、時価総額の3分の1以上にあたる338億円ものネットキャッシュを保有しています。

つまり、現在の推定株価1,300円という水準は、こうした「過渡期の重荷」を過剰なまでに織り込んでいるように見えます。短期的には株価が上がりにくいかもしれませんが、数年後にこれらの投資が収益を生み出し始めたとき、オーナー利益は劇的に回復するはずです。

その「回収フェーズ」を見据えて、今のうちに仕込んでおけるか。バリュー投資家の忍耐力が試される、非常に面白い銘柄だと考えています。


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