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【6920】レーザーテックの財務分析:オングストローム世代を待つ踊り場と前受金の減少

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【6920】レーザーテックの財務分析:オングストローム世代を待つ踊り場と前受金の減少

皆さん、こんにちは。okuriru.comの開発者です。

最近、週末に福岡の温泉に家族で行ってきたのですが、露天風呂でぼーっと空を眺めていると、「温泉のお湯が一気に流れ込むタイミングと、ちょろちょろとしか出ないタイミングがあるな……」と変なところに気がついてしまいました。これ、まさに企業の「受注と売上」の関係に似ていませんか?

今回は、そんな「お湯の出具合」が非常に気になった銘柄、レーザーテック(6920)を取り上げます。半導体検査装置の絶対王者であり、長らく投資家たちを熱狂させてきた企業ですが、彼らの決算データをokuriru.comに流し込んだとき、一つの興味深いシグナルが浮かび上がりました。

今日は、ただ表面的な増収増益を喜ぶのではなく、データから見えてくる「踊り場」の存在と、その先にある「本当の勝ち筋」を深掘りしてみたいと思います。


2025年期の圧倒的な実績と、異常なまでの資本効率

まずは第3章「分析」の前に、彼らが今期(2025年6月期)に出した実績を振り返りましょう。

成長性・効率性の確認

指標202320242025
売上高(億円)1528.32135.12514.8
純利益(億円)461.6590.8846.5
売上高純利益率(%)30.2%27.7%33.7%

売上高は(前年比+17.8%)で2,514億円、純利益は(前年比+43.3%)で846億円。相変わらずモンスター級の成長を見せています。利益率も33%を超え、メーカーとしては信じられない水準です。

しかし、私が一番驚愕したのは、この846億円の純利益に対して、今年の設備投資額がわずか50億円ぽっちだということです。

有報のMD&A(経営成績の概要)を読むと、「ファブライト戦略を取り、製造の多くを協力会社に委託している」とあります。この規模の開発型企業でありながら、これほど有形固定資産を持たない身軽さは目を見張るものがあります。利益の大半の価値が損なわれず、そのまま現金として会社に残る「キャッシュマシーン」のお手本のような財務です。


増収増益の裏で急激に細る「前受金」の正体

さあ、ここからがokuriru.comの真骨頂です。過去最高の決算を手放しで喜ぶ前に、バランスシートを時系列で追ってみると、無視できない「強烈な違和感」にぶつかりました。

それが「前受金」の急減です。

前受金売上比率は、ピークの2023年に62.2%(951億円)あったものが、今期は25.6%(643億円)へと300億円以上も激減しています。通常であれば、前受金はSaaS等のサブスク企業で重宝される先行指標ですが、レーザーテックのようなリードタイムの長い半導体検査装置ビジネスにおいて、前受金は「確定した未来の売上」そのものです。この急減は何を意味しているのでしょうか?

IR資料(00.pdf)を開いて、思わず納得しました。

受注の低調な推移を背景に、2026年6月期は減収・減益を予想

経営陣自らが、次期の「踊り場」を明言していたのです。つまり、現在の歴史的な増収増益は、過去数年間で積み上げた巨大な受注残(バックログ)を取り崩して実現したものであり、受注の勢い自体は明らかに一服しているということです。

踊り場の原因は、看板商品「ACTIS」のキャンセル?

さらに資料を読み込むと、「第4クォーターに一部キャンセルが発生したことと、受注確度が高いと思われていたACTISが受注に至らなかった」というヒヤリとする一文がありました。

ACTIS(EUV露光用マスク欠陥検査装置)は彼らの虎の子です。もしこれが競合に奪われたのであれば大問題ですが、文脈を追うとそうではありません。「EUV関連の需要は特定の1社だけでなく、全体的に落ち込んでいる状況」とのこと。半導体メーカー側が、最新鋭の設備投資を一旦「保留」している業界全体の一服感が原因なのです。

しかし、経営陣はこれを悲観していません。「2026年(カレンダーイヤー)から回復し、2027年6月期に向けてオングストローム世代(2nm以下)が始まっていくことに伴い、ファブ側でACTISの採用が増加する」と明確な道筋を描いています。

彼らの独占的技術による深い「堀(モート)」にひびが入ったわけではなく、単に投資スケジュールの後ろ倒しが起きているに過ぎません。


バリュエーション分析:この谷で待ち伏せるか?

では、このような状況下で、レーザーテックの企業価値と株価水準(今回は試算株価を36,000円と置きました)をどう評価すればよいのでしょうか。

そこで登場するのが「オーナー利益」です。

指標202320242025
オーナー利益(億円)267.85607.07840.81
オーナー利益価値(億円)5357.012141.416816.2

※オーナー利益価値は「オーナー利益 ÷ 期待利回り(ここでは5%)」で算出。

極小の設備投資により、純利益のほとんどがそのままオーナー利益(840億円)となっています。試算時価総額約3.2兆円に対して、約38倍の実績マルチプル。ファブライトで圧倒的な高収益、かつAI/半導体のど真ん中銘柄としては、決して非常識な価格ではありません。

しかし、「来期が減収減益」であることを考えると、短期的な市場のモメンタムはネガティブに振れる可能性が高いです。


財務の安全性

指標202320242025
ネットキャッシュ(億円)208.11035.611581.86
正味流動資産比率(%)0.641%3.190%4.872%

財務安全性については全く問題ありません。ネットキャッシュは順調に積み上がり、1,500億円を突破しました。この莫大な手元資金が、彼らの「圧倒的な開発スピード」を生み出し、次の「オングストローム世代」に向けた投資の原資となるのです。


結論:温泉のお湯は再びドッと出るのか?

今のレーザーテックは、目先の成長指標だけを見れば「買い」ですが、前受金の減少という先行指標を見れば「要注意」です。まさに今、彼らは踊り場の直前にいます。

一投資家として、この株価水準で飛び乗るのは勇気がいります。しかし、バリュー投資を実践する身としては、こういう「誰もが知る超優良企業が、一時的なマクロ要因で受注を落とし、市場から嫌気されるタイミング」こそが、最大の観察ポイントに見えてしまいます。

「1兆ドル市場」へ向かう半導体産業において、微細化のロードマップが存在する限り、同社のEUV検査装置を避けて通ることはできません。来期の業績の谷を越える覚悟があるのか、それともこの谷の底で虎視眈々と待ち伏せるのか。投資家のスタンスがまさに問われる銘柄です。

私は、温泉にはゆっくり浸かる派なので、彼らの次世代技術が再び花開く(=お湯が再びドッと出始める)タイミングを、データを見ながらじっくり待ちたいと思います。


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