最近、ふと妻とこんな会話をした。「富士通って聞いて、何を思い浮かべる?」「え、パソコン?あと、なんかお堅いシステム作ってる会社?」世間一般のイメージはまだそんなところだろう。私自身、数十年前の学生時代には富士通のパソコン「FMV」にお世話になった口だ。だが、okuriru.comの生データを眺めつつ、今回の有価証券報告書を読み込んでいくと、私は思わずPCの画面に向かって「マジか…」と呟いてしまった。
今の富士通は、かつての「ハードウェア屋さん」でも「お堅いSIer」でもない。完全にグローバルなITコンサル&クラウドベンダーへと脱皮しようとしている。いや、すでに脱皮しつつあるのだ。
1. 富士通の「今」のビジネスモデルの深掘り
富士通の2024年度実績を見ると、売上高は「3兆5,501億円」、一見すると前年度の「3兆7,560億円」から減収しているように見える。だが、テキスト資料(MD&A)を読み解くと、この数字の裏に隠された「痛みを伴う構造改革」の果実が見えてくる。
彼らは今期から「デバイスソリューション」を非継続事業としてすっぱり切り離したのだ。継続事業ベースで見ると、実は前年比2.1%の増収。さらに、サーバ・ストレージ事業すら分社化してエフサステクノロジーズを設立し、低採算だった欧州のユビキタス事業(パソコン事業など)からも撤退している。
本丸はもはやハードウェアではなく「サービスソリューション」だ。ここで目を引くのが、サステナビリティ貢献を掲げたデジタルサービス群「Fujitsu Uvance」である。これが前年比31%増の4,828億円と猛烈な勢いで伸びている。従来型の「言われたシステムを作るだけの御用聞きSI業務」から脱却し、コンサル主導で顧客の経営課題から入り込み、自社の標準プラットフォームをごっそり導入させるSaaSライクなスタイルへの移行。これにより、サービスソリューション部門の調整後営業利益率は「12.9%」にまで劇的に改善している。
2. 財務の真実:筋肉質なバリュエーション分析
では、このドラスティックな事業転換は財務数値にどう表れているのか。「圧倒的な高収益体質」へのシフトを、okuriru.com独自のバリュエーションで検証する。
成長性と効率性
まずは基本の成長性と効率性から見ていこう。
| 指標 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|
| 売上高(億円) | 37,137.7 | 37,560.6 | 35,501.2 |
| 純利益(億円) | 2,151.8 | 2,544.8 | 2,198.1 |
| 売上高純利益率(%) | 5.8% | 6.8% | 6.2% |
売上規模を追うのではなく、採算性と注力領域へリソースを集中していることがよくわかる。
オーナー利益分析
続いて、私が最も重視している「オーナー利益」の推移だ。今回は期待利回り「5%」で事業価値を算出してみた。
| 指標 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|
| オーナー利益(億円) | 2,257.96 | 2,227.89 | 1,848.79 |
| オーナー利益価値(億円) | 45,159.2 | 44,557.8 | 36,975.8 |
構造改革や人員再配置(ジョブ型雇用への転換など)の先行投資、そしてAIや量子コンピュータなどへの巨額の研究開発投資(1,012億円)を行いつつも、堅調な現金を稼ぎ出している。
財務の安全性(ネットキャッシュ分析)
最後に、いざという時の防えである「ネットキャッシュ」だ。
| 指標 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|
| ネットキャッシュ(億円) | 1,406.31 | 536.72 | 3,641.57 |
| 正味流動資産比率(%) | 21.35% | 0.75% | 5.86% |
(※正味流動資産比率は表示の都合上、小数点第2位に丸めて記載)
前年の底から一気に3,640億円規模へとネットキャッシュが急回復している点が見逃せない。このキャッシュリッチな状態で、なんと「自己株式を1,800億円」も取得している。稼いだ現金を株主にきっちり還元しながら、筋肉質なB/S(貸借対照表)を構築しつつある。
3. 投資家としての本音:「隠れたリスク」と大化けの可能性
私がもしこの会社の社長なら、ここまでドラスティックな改革を数年でやり切れるだろうか。ハードウェアを手放し、コンサルとクラウド領域の「Fujitsu Uvance」に全振りする。これは事実上、「国産のアクセンチュア」を目指していると言っても過言ではない。
リスクとしては、既存の安定した運用保守ビジネスを削りながらの移行となるため、もしも技術競争に負ければ両方の果実を失う危険性がある(事業のリスク要因)。しかし、彼らはそこから逃げずにAIや量子コンピュータへ莫大な投資を行い、自らリスクを取りに行っている。
まとめ:ビジネスモデルの転換点にいる巨人
時価総額およそ6.2兆円に対するオーナー利益(約1,848億円)を見ると、割安かと言われればまだプレミアムが乗っている状態かもしれない。だが、「ビジネスモデルの転換点」にいる企業として見ると、そのポテンシャルは計り知れない。
特に、SaaS型の安定的な収益基盤となるUvanceがこのまま伸び続ければ、数年後のEPS(1株当たり利益)は全く違う水準に跳ね上がるだろう。今週末、息子を連れて温泉にでも浸かりながら「もし富士通が本当に国産テック・コンサルの覇者になったら」というシナリオを、もう一度じっくりシミュレーションしてみようと思う。
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